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ため息の向こう側 [短編]
はぁ・・・、と何度目になるかわからないため息が出た。
仕事でミスをした、しかも確認不足で起きたミスだった。
「何年この仕事をやってるんだ。」ごもっともな上司からの叱責。
「新人だったら許されても、あなたの年数だったらこれはダメだよ。」と先輩。
「誰だって全くミスなくやってる訳じゃないんだし。」なんとな慰めてくれる同僚。
この仕事、向いてないのか・・・
頑張ろうと決めて始めた仕事のはずなのにすっかり自信がなくなっていた。
なんとなくこのまま帰りたくない気分だった。
定時の17時に仕事が終わると今の時期はまだまだ明るい。
駅の改札をくぐると行き先の案内板が目に入った。
3番線の次の準急に乗ると、母校のある駅に行ける。
久しぶりにこんな時間に自宅とは違う方向に向かう電車。
車窓から見える街並みは変わっているところもあれば見覚えのある建物もある。
程なく母校の最寄駅に着いた。
母校の周辺は住宅街だったので家路へ急ぐ人がほとんど。
邪魔にならないように母校へと歩くと懐かしい制服姿で駅へ向かう学生達とすれ違う。
あの頃は今の仕事をしてるとは思ってなかったなぁ。
はぁ・・・、またため息が出ていた。
懐かしい母校の前まで来ると門が閉まっている。
あれ?私のいた頃、この門は18時ごろは開いていたのに。
そうか、今は防犯とかの都合上校門って閉まってるんだっけ。
ちょっと学校の中に入ってみたかったけど、ダメだな。
はぁ・・・。
諦めて駅に戻って歩きかけると、前にはテニスラケットを持った学生の姿。
へえ、後輩なんだ。
私も部活はテニス部で、暗くなるまで部活に励んでいた。
決して上手ではなく、試合のメンバーに選ばれることはなかったけれど
それでも必死にボールを追いかけて汗を流していたっけ。
「諦めの悪さは天下一品ね。」なんてよく言われた。
ライン上に落ちるボールの見極めが下手でいつもがむしゃらに追いかけた。
「もっとしっかりボールを見たら無駄に走り回って体力消耗しなくて済むよ。」
部長の言葉がふと頭に蘇る。
「あなたはもう少し全体を見るクセをつけた方がいいよ。」
ああ、あの頃言われてた言葉は今日のミスにそのまま反映されてる。
全体を見渡して、注意すべきポイントをしっかり絞っていれば防げたミス。
やだなぁ、高校生の頃から進歩ないじゃん。
このまま凹んでまた同じようなミスは繰り返したくない。
部活は諦めが悪くても成績を残せないまま引退の時を迎えてしまったけど仕事はそうじゃない。
ここからが正念場、今度は終わりは自分で決められる。
こんなところで諦められない。
「私は諦めが悪いのよ。」
駅へ向かう足取りは力強くなっているのを自分で感じられた。
流れ星 [短編]
カラオケの好きな人がやっているブログで
コメントを入れて交流のある人同士でのオフ会がきっかけだった。
こういう集まりに顔を出すのは初めてで、かなり参加をためらったのだが
場所が良く知ったカラオケボックスということと
気になっているコメントの主である景くんが参加すると書き込みがあったので
どうしても会ってみたくて参加を決意した。
当日会ってみると景くんはコメントの印象どおり明るい人で
参加したメンバーみんなとすぐに打ち解けて盛り上がっていた。
どう振舞って良いかわからず遠慮がちだった私も
いつの間にかみんなと盛り上がることができて
気が付いたらステージの上で十八番を歌っていた。
歌い終えてジュースを飲んでいると景くんが話しかけてきてくれた。
「きれいな声だね。次はデュエットしない?俺とキー合いそうじゃない?」
「良いけど、曲はどうする?」
結局懐メロの定番デュエットソングを歌うと
聞いていたみんなが
「初めて合わせたと思えないぐらいきれいにハモってたよ」と拍手してくれた。
これがきっかけで景くんと二人でも合うようになり
これまで誰にも話してなかった「歌手になりたい」という夢も話した。
やがて付き合うようになって両親にあってほしいと言われた時に
「まだ夢をあきらめたくない」と告げると
「趣味で歌うのはいくらでもしてくれていいけど、夢はあきらめてくれ」
これまでにないほど真剣目で見つめられた。
景くんは、私に家庭に入ってほしいという。
一旦答えを保留にしてしばらくゆっくり考えて欲しいと言われ
2週間の時間をもらった。
先ず考えたのは自分の年齢。気が付けば30歳を過ぎている。
結婚や出産の事を考えるなら、まさに今だろう。
同級生に比べると高齢な親も今なら元気で祝福してくれる。
特に父はなにも言わないけれど、孫の顔もみたいだろう。
景くんともし別れて、次の出会いがそうそうあるとも思えない。
何度となく受けたオーディションはことごとく落ちてきた。
母親からはいい加減に目を覚ましなさいと言われ続けている。
特に取り柄のない私だけれど、歌だけはずっと褒められ続けてきた。
まだ、30歳。まだもう少し追いかけたい。
結婚して子育てしながらでも夢を追いかけることを許してくれたら
私にはそれが一番理想。
約束の日、自分の本音として景くんに告げた。
景くんはしばらく黙って、やがて口を開いた。
「結婚して子どもが出来たら、その子が手が離れたら夢を追ってくれてもいい」
「それじゃダメなの。」
私は景くんに背を向けた。
あれからさらに10年が経った。
夢を追う事を選んだ私は、両親に花嫁姿を見せることもなく二人を見送り
閉店間際のスーパーで割引シールがついたお弁当を買ってきて一人歩いている。
同じ年頃の人が子どもの手を引いて歩く姿を見かけると
あの時に景くんの手をとっていれば良かったのだろうかと心が揺れる。
ふと見上げた空に流れ星が流れた。
「歌手になれますように。」
とっさに出た願い事は夢の方だった。
きっとあの時に、景くんを選んでいたとしても私はずっと後悔をしていたかもしれない。
死ぬまで追いかけられる夢があるのよ、私には。
前を見据えて、私は歩きだす。
~ 終わり ~
休日出勤 [短編]
映画を見て食事をしていつもの駅前までゆっくり歩く。
「来月はどうする?」
彼が肩に手をまわしながら問いかけた。
「来月はもうないの。」
彼女はいつもの口調で微笑む。
呆然とする彼の手を肩からほどくと、彼女は向かい合って立った。
「これまで本当にありがとう。とても楽しかったし、幸せだった。
でも、もう月に一度の休日出勤は終わりにしましょう。」
戸惑いを隠せない彼。
「どうして急に。」
彼女に手を伸ばすが、するりとかわされる。
「私もね、結婚したいの。」
彼の手が空中をぎゅっと握りしめた。
「・・・、すまない。それは・・・。」
「いいの。謝らなくて。私もあなたに家庭があると知っていたんだもの。
ただ、映画の趣味がこんなに合って、一緒にいて楽しい人は初めてだった。
何度となく思ったのは確かよ。あなたと結婚できたら良いのになって。」
彼が握ったこぶしを力なく下におろした。
「あなたも同じでしょう。奥さんが嫌いで私とデートしてたんじゃない。
ただ一緒に映画見てそのあとに楽しい話をしたかっただけ。」
彼はまっすぐに自分を見つめ返す彼女の瞳に決意を感じた。
彼の脳裏にこれまでの楽しかった時が流れる。
「もしも私と先に出会っていても、あなたは私を選ばなかった。
それに気づいてしまったの。」
「え?」
彼女は少し寂しそうに微笑む。
「先月みたラブストーリーの映画、最後のシーン。
私はあなたを見たけど、あなたは奥さんを想ってた。」
彼は天を仰いだ。
彼女の言うとおりだったから。
「さあ、行って。いつもは私を見送ってくれたけど、最後は見送らせて。」
彼は背中を向けて一歩歩いて足を止めた。
「俺の方こそありがとう。楽しかったよ。
どこかですれ違っても知らない顔するよ。」
「私もそうするわ。」
「さようなら。」
「さようなら。」
人ごみに消えていく彼の背中を見送ると、一筋涙が流れた。
今度好きになる人は、ラブストーリーのラストシーンで見つめあってくれる人でありますように。
~~ END ~~
梅雨入りしました [ほんの戯言]
今年の目標だった公募に応募するのは
なんとか達成しましたが
表紙を付け忘れるという大失態を犯したので
もう一回ぐらいちゃんと再チャレンジしたいです
いきなり長編なんて書けないので
短編もしくはショートショート
短いぶんうまく話を転がさないとテンポが悪い上に
結局何が言いたかったんだって事になりそうだから
簡単には出来ないんだよなぁ
プロの作家さんてすごいなぁ
ハンドルネームの事 [ほんの戯言]
名前の表記を昨年から変えております
藤並海 改め 藤並香衣です
読み方は フジナミカイ のままです
これまで特にふり仮名もふってなかったので
ウミと読んでくださっていた方が多かったようです
ネット上でのみのつながりのある方と直接お会いする機会があり
その方からも「ウミさん」と呼ばれて
ああ、そうか~と思い
間違いなくカイと読んでもらえるようにというのもあって変えました
字はせっかくだから好きな文字を入れようということで香を使ってます
メインブログでは報告済みですが
昨年奈良のご当地ヒーロー【大和超人ナライガー】のDVDで
特典映像に僕の書いた「帝国の休日」を採用していただきました
その時に【藤並香衣】で名前を載せてもらおうかとも思ったのですが
家族と相談の結果、別名義にしております
機会がありましたら
是非見てくださいね~
藤並海 改め 藤並香衣です
読み方は フジナミカイ のままです
これまで特にふり仮名もふってなかったので
ウミと読んでくださっていた方が多かったようです
ネット上でのみのつながりのある方と直接お会いする機会があり
その方からも「ウミさん」と呼ばれて
ああ、そうか~と思い
間違いなくカイと読んでもらえるようにというのもあって変えました
字はせっかくだから好きな文字を入れようということで香を使ってます
メインブログでは報告済みですが
昨年奈良のご当地ヒーロー【大和超人ナライガー】のDVDで
特典映像に僕の書いた「帝国の休日」を採用していただきました
その時に【藤並香衣】で名前を載せてもらおうかとも思ったのですが
家族と相談の結果、別名義にしております
機会がありましたら
是非見てくださいね~
紅梅 [短編]
小雪がちらちらと舞うある日
郵便受けに入っていた一枚の葉書は
古い友人の結婚の報告だった
写真はなく、シンプルなイラストに
「結婚しました」新居の住所と新しい名前
顔を合わせたのは何年前だったか
その時に、40歳も過ぎたし結婚しても式はあげないとか言ってたけど
本当にそうしたようだ
スマホを開いて祝福のメールを送ろうかと思ったけれど
葉書で知らせてくれたのだから葉書で返すことにした
友人の名を新しい名前で書くのは
どこか心がくすぐったい
知っている人なのに知らない人に書くみたいで
ありきたりなおめでとうの言葉しか綴れないけれど
彼女ならきっとわかってくれる
書き上げた葉書を近くのポストへ投函した
ひんやりとした空気の中を歩くと
ほのかに甘い香り
見回すと垣根から紅梅の花が見える
紅梅の花言葉には忍耐というのもあった
寒さに負けずに花開く紅梅を見ていると頷ける
私にも忍耐の先に
香る花咲く時がくるとよいのだけれど・・・
寒波がくるらしい [ほんの戯言]
沖縄でも雪がちらつくかもレベルな寒波がきてるらしいです
年明けてからしばらくは暖かかったから
寒いのが身体に堪えます
仕事のほうもなかなか欠員補助ができず
メインブログは更新できても
なかなかこちらまでは余裕がない
土曜日が仕事になっちゃったので
平日の休みに予定を入れて
日曜日に家の用事をすると
ゆっくり休める日が一週間に一日もない・・・
何にも予定を入れない休みを
なんとか一日作らないと
しんどいなぁ
早く新しい人が見つかって
これまでのペースでお仕事できるようにして
休みは休みらしく過ごしたい
初詣で神様にお願いしたんだけど
「しっかり働きなさい」ってことなのかなぁ
もう12月 [ほんの戯言]
今年もこちらに1つも作品をかけない間に
12月になっちゃったよ
短いのを繋ぎながらでも
書くのが良いってわかってるけど
最近は横になったら最後
つい眠っちゃう
昔は午前2時とか3時まで書いてたこともあるんだけど
最近はそんな根性はどこを捜してもない!(笑)
nice!こそついてないけど
時々見てくださっている方がいるようなので
こんな更新状態で申し訳ない限りですが
年明け以降仕事の状況がかなりハードになるので
ますます更新は滞りそうな気配
とか言いながら
意外と忙しいときの方がかけたりするのはなんなんでしょうね(笑
12月になっちゃったよ
短いのを繋ぎながらでも
書くのが良いってわかってるけど
最近は横になったら最後
つい眠っちゃう
昔は午前2時とか3時まで書いてたこともあるんだけど
最近はそんな根性はどこを捜してもない!(笑)
nice!こそついてないけど
時々見てくださっている方がいるようなので
こんな更新状態で申し訳ない限りですが
年明け以降仕事の状況がかなりハードになるので
ますます更新は滞りそうな気配
とか言いながら
意外と忙しいときの方がかけたりするのはなんなんでしょうね(笑
紫陽花 [短編]
窓の外
コーヒーカップから立ち上る螺旋の向こうに
雨粒をまとった紫陽花が見える
「移り気な人だね」
「褒め言葉だと思っておくわ」
あの人と交わした最後の会話はこんな感じだった
まだ若かったのね
アナタを繋ぎとめておきたくて
よそ見をしてるフリしてた
ベタぼれだなんて気づかれたくなくて
他に気になる人がいる素振りでアナタの様子を伺っていた私
素直に好きと言えるほど若くなくて
背伸びして駆け引きに長けたオトナの女を演じる
そう、私はアナタの前では女優だったの
「うかうかしてたら他の男に持っていかれる」
そんな危機感をアナタに持たせておきたかった
今思えば、子どもっぽいことこの上ない
コーヒーカップに手を伸ばすと
ハリも艶もなくなった指
この指に・・・
いつかアナタが指輪をはめてくれると思っていた
浅はかな考えの幼い私を
選ばなかったアナタは正解ね
でも本当の私を知ってほしかった
私は移り気なんかじゃなかったわ
未だに忘れられないほど
アナタ一筋で健気に想いつづけてるの
アナタも今頃どこかで紫陽花を目にしてるのかしら
私の知らない誰かと幸せになっているとしても
雨にぬれながら鮮やかに咲く紫陽花を見て
せめて私のことを思い出して
雨が止むまでの間でいいの
アナタの心の片隅にそっと咲いているわ
コーヒーカップから立ち上る螺旋の向こうに
雨粒をまとった紫陽花が見える
「移り気な人だね」
「褒め言葉だと思っておくわ」
あの人と交わした最後の会話はこんな感じだった
まだ若かったのね
アナタを繋ぎとめておきたくて
よそ見をしてるフリしてた
ベタぼれだなんて気づかれたくなくて
他に気になる人がいる素振りでアナタの様子を伺っていた私
素直に好きと言えるほど若くなくて
背伸びして駆け引きに長けたオトナの女を演じる
そう、私はアナタの前では女優だったの
「うかうかしてたら他の男に持っていかれる」
そんな危機感をアナタに持たせておきたかった
今思えば、子どもっぽいことこの上ない
コーヒーカップに手を伸ばすと
ハリも艶もなくなった指
この指に・・・
いつかアナタが指輪をはめてくれると思っていた
浅はかな考えの幼い私を
選ばなかったアナタは正解ね
でも本当の私を知ってほしかった
私は移り気なんかじゃなかったわ
未だに忘れられないほど
アナタ一筋で健気に想いつづけてるの
アナタも今頃どこかで紫陽花を目にしてるのかしら
私の知らない誰かと幸せになっているとしても
雨にぬれながら鮮やかに咲く紫陽花を見て
せめて私のことを思い出して
雨が止むまでの間でいいの
アナタの心の片隅にそっと咲いているわ
もうすぐお盆ですね [ほんの戯言]
ホントにこっちはノータッチ状態
メインブログにも表立ってリンクしてないし
知る人ぞ知る・・・
僕自身でさえ毎日見られてないんですが
アクセス解析を見ると毎日何人かしらは来てくださってて
こんな状態なのに有り難いなと思ってます
新しい仕事には慣れてきたんですが
以前に比べると肉体労働なので
やはり疲れます
朝は以前より1~2時間遅い出勤もあるんですが
家族を送り出して家事をして
空いた時間はタイマーかけてやっぱり寝てます(苦笑
多分、この朝の一眠りでなんとかバランスとってる感じ
ソネブロさんがもっとサクサク繋がってくれたら
メインにご訪問くださってる皆さんのところへスムーズに訪問できて
創作に時間を使えるのになと時々思います
今の仕事はお盆休みというのがないので
夏もきっと更新する余裕はないだろうな~
平日にもう1日休みをもらえると良いんだけど
人員が慢性的に足りなくて難しいようだ
年内に何回ここを更新できるかな~(苦笑
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